冲方丁の「マルドゥック・スクランブル」を読み終えた。 冲方丁の著作を読むのは初めてで、「もっと早く読めばよかった!」と後悔してた。
感想
三冊読み終えての感想としては、まるで映画のよう、といった感じ。
主人公ルーン=バロットが車の中で焼殺 (爆殺) されかかるという悲劇から物語は始まる。 途中省略するが、人工皮膚<ライタイト>と電子撹拌<スナーク>を手に入れ、一命を取り留めたバロットは、その生い立ちの悲惨さとウフコックという”強い武器”によって、一度はヒドく歪んでしまう。
弱い人間が、武器という力に奢り、強さに溺れる様は痛々しかった。 その無様を指摘するボイルド―冷酷で残酷な殺戮マシーンは、無慈悲にバロットの肉体・精神を傷めつけ苦しめる。
弱さゆえに、傷つけることでしか絆を強められなかったという、未熟な雛鳥の物語が1巻-2巻中盤の話だった。
マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕 マルドゥックスクランブル (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・スクランブル The 2nd Combustion─燃焼 〔完全版〕 マルドゥックスクランブル (ハヤカワ文庫JA)
2巻中盤から3巻までは、カジノでの闘い。 かねてから抱いていた疑問への答えを手に入れるための闘い。 “闘”いという字を当てたのは、それがまさにルーン=バロットにとっての精神的な成長劇であったから。
格闘や銃器を用いたバトルアクション要素はまったく無いが、ベル・ウィング、アシュレイ・ハーヴェストとの激闘は手に汗握る。
ウフコックとのコンビネーションが炸裂するポーカー戦や対マーロウ・ブラックジャック戦も華麗さることながら、ベル、アシュレイ戦では、バロットがウフコックという殻から飛び出し、一人の女声、一人の人間として独立するまでの階段を駆け上るような成長物語となっている。
その成長の速さゆえに、ウフコックは一瞬戸惑いを覚えてしまう。 だけど、バロットの自律は、ウフコックに対等なパートナーシップをもたらす結果となる。 父と娘のようだった守り守られる関係から、一歩前へ踏み出せた瞬間は、読んでいて心暖められた。
マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust─排気 〔完全版〕 マルドゥックスクランブル (ハヤカワ文庫JA)
そして3巻を締めくくるのはボイルドとの決戦だが、これはバロットではなく、ウフコックの闘いと言えるかもしれない。
過去の決別から敵同士となった元相棒のウフコック・ボイルド。 煮え切らない卵・ウフコックの強い決断による終幕はなんと表現したらいいものか。 過去への決別や未来への前進など、時間軸を使った表現がよぎるも、どうにもしっくりこない。 なんとも辛い闘いに思えた。
悪い結末では無いにせよ、前に進むための悲しい犠牲・悲しい結末だっと思う。
残りのマルドゥック・シリーズも購入した
以下は、Kindleでまとめ買いしたマルドゥックシリーズ。 ウフコックとボイルドがどのように離別してしまったのかは、(まだ読んでいないが)「マルドゥック・ヴェロシティ」によって明かされるらしい。 楽しみだ。 これとあとマルドゥック・フラグメンツも購入した。こっちも早く読みたい。
本作から冲方丁のファンになった。 繰り返すが、もっと早く読めばよかった!